I産業フェロシルト事件株主代表訴訟

2012年6月29日、大阪地裁は、I産業株式会社の製品フェロシル

トの製造・出荷に関わった元取締役ら3名に対して、それぞれ485億円、

254億5050円、101億8020万円の損害を石原産業に対して支払

うように命じました。またしても、I産業関連の判決ですね。

 

フェロシルトは、I産業の主力製品である酸化チタンの原料であるチタン

鉱石から出る廃酸汚泥(アイアンクレー)のリサイクル品として、1999

年1月から製造し、2001年8月から販売・出荷した「埋立材」です。

I産業は、産廃処分コストの大幅軽減を目的として、アイアンクレーにわ

ずかに手を加えただけで「フェロシルト」の商標をつけ、「商品化」しました。

一言でいえば、外見は商品、中身は廃棄物という「偽装リサイクル品」であ

る。後に会社(罰金5000万円)と実行役のS取締役と社員1名が有罪判決

を受けました。

 

本件は、刑事事件だけでは全容解明も責任の明確化も不十分だとするグリー

ン株主が、歴代取締役に対して、会社に生じた損害を賠償するよう求めて2

007年に提訴した株主代表訴訟です。

 

大阪地裁判決は、まずフェロシルトの開発、製造、出荷を一貫して担当し、

データ偽装なども行ったS取締役・副工場長に対しては、ほぼ全額の485

円の損害賠償を認めた。次いで、S取締役の直属の上司にあたり、取締役の

中でフェロシルトを担当(分掌)していたO取締役・工場長、T取締役・工場

長については、フェロシルトが社内の品質管理制度から逸脱していたことを

知りえたし、また廃棄物処理法違反となりうることを調査しえた(いずれも

過失責任)として、それぞれ関与の度合い等に応じて、101億円余と25

4億円余の損害賠償を命じたものである。

 

この判決の環境面からみた意義は、第1に、企業が環境規制に対する遵法

確認(コンプライアンス)を怠り、事業活動に伴って汚染を拡散してしま

った場合には、企業に生じた巨額の環境回復費用等について担当取締役も

また個人責任を負いうることを示し、環境コンプライアンスの重要性につ

いて、事業活動を担う取締役らに警鐘を鳴らした点にある。

 

第2に、ことに廃棄物のリサイクルにおいては、担当取締役としては、商品

としての安全確認義務と廃棄物処理法違反の有無という表裏両面からの調査

検討が不可欠であることを示し、コスト削減のための安易なリサイクルに警

告を発していることである。

 

他方で、判決が社内に設けられたフェロシルトに関連するプロジェクトチー

ム(開発時には、生産構造再構築計画実行本部、販売時には酸化チタン事業

構造改革推進会議)のメンバーである他の取締役について、フェロシルトの

有害性や廃棄物性について認識しえなかったとして、過失責任はないとした

点は問題であると考えられる。

 

判決は、違法行為とされた業務の直接の担当者でなくとも、プロジェクトチ

ームのメンバーであれば、その経歴や属性と当時認識していた事情に応じて、

業務の適法性や商品の安全性等についての調査義務が発生しうることを認め

ながら、結論としてはそのような場合を限定している。特に、廃棄物処理法

違反の認識可能性については、逆有償であるという決定的事実を推進会議の

メンバーは知っていたのに、そのことだけでは法違反を認識しうる事情とし

ては足りないとしている。これでは、結果的にI産業の取締役における集

団的な遵法意識の欠如を正当化することになっているのではないかと思われる。