電話相談のみで解決した事例

内容はご主人を亡くされた高齢の奥様からのものでした。奥様のご希望は土地家屋等の不動産を始め、その他預貯金などの相続財産をとりあえずご自分名義にしたいというものでした。相続人として奥様の他に息子さんと娘さんがおり、それぞれ結婚なされており、経済的にも独立した状態なので、子どもさんたちも奥様の考えに同意しているそうです。

実はこのようなパターンは結構多いのです。子どもたちにとっては今後のお母様の生活を心配なさるのが通常ですから(奥様が受給できる遺族年金などの公的年金額は、生前のご主人が受け取っていた厚生年金額よりもかなり低額のものとなります)。

このような場合「相続分不存在証明」書という書式(根拠条文は民法第九百三条第一項及び第二項)を用いて、相続登記申請の手続きをすることが登記実務では一般的となっています。書式の内容について特定の方式が要求されているわけではありませんが、一般的には下記のような書式を用います。

 

   相続分不存在証明

 私は被相続人より民法第九〇三条第一項規定の贈与をすでに受けており、被相続人の死亡による相続については相続する相続分が存在せず同条第二項に該当する者に相違ないことを証明します。

     年   月   日

 (本籍)

    被相続人 亡

 (住所)               

    右相続人   

                                    実印                               

  参考

  民法第九〇三条

   第一項 …

   第二項 …

                               

この証明書があれば、遺産分割協議書などがなくても相続登記手続きをすることができます。

たとえ実際にはお子様たちが相続分を超える贈与を受けていなくても(特別受益の事実がなくても)、上記書面の有効性を認めているのが一般的な裁判例です(東京高判昭59・9・25など参照)。

この書面を用いる場合、お子様たちの意思確認が重要となりますが(少しでも疑義がある場合は遺産分割協議書の作成の方が万全です)、書面の内容から通常一般人なら意味内容を理解することができますので、普通は問題となりません。

以上一般論を述べてきましたが、電話でのご相談では上記書面について説明させていただき、併せて、ご自分で登記申請をなさいますかと尋ねました(登記申請手続きはもちろん私の守備範囲外です)。それに対して奥様はご主人を亡くされたという心労および預貯金凍結解除や公的年金関係の諸手続きによる肉体的疲労からか、ここは専門家の人にお頼みしたいとのことでしたので、私が懇意にさせていただいている司法書士さんの連絡先をお伝えいたしました。ご近所の方でしたので、だいたいの土地評価額が分かっておりましたので、費用面についてもお知らせしておきました(所有権移転のみの場合と併せて抵当権(根抵当権)抹消登記もする場合の2パターンについて)。

また一般論ですが、相続登記の際に自己の不動産に対する抵当権(根抵当権)が抹消されずに残っていることに気づく方がかなりおられます。銀行ローンを返済し終えた際にそのまま放置していた場合です。

抵当権抹消登記の料金ですが、司法書士さんによって異なりますがだいたい1・5万円~3万円ぐらいです。必要な書類は住宅会社のカスタマーセンターなどにご相談すれば揃えることができます(銀行再編の影響からか数週間かかる場合もあるそうです)。